研究所について

山田清志 学長挨拶

『人間の安全保障(ヒューマン・セキュリティ)』の戦略的追求を!

 東海大学平和戦略国際研究所(SPIRIT)は、国際平和を戦略的に構築するため、松前重義前総長が冷戦の終結を視野に入れ『ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)』との連携で1986年に設立されました。軍事的な国家安全保障を越えた国際的な安全保障の理想を追求し、そのための現実的方策を提唱し続けています。国家が軍隊を強化しても、地球規模の環境・疫病・難民などの問題は解決できません。SPIRITは、国家の枠外で生じる世界市民の不安と欠乏に注目しています。以来今日に至るまで、研究活動の基本理念に『人間の安全保障(ヒューマン・セキュリティ)』を掲げ、政府に対する政策提言や大学での教育に積極的に活かしてきました。『国家を中心とした安全保障』に慣らされた私たちは、人間そのものに対する脅威に無防備であり―環境破壊・テロリズム・ドラッグ・臓器売買・金融危機・政治的弾圧・サイバー犯罪などの「人間の存在そのものが危機に巻き込まれること」に無警戒です。また、科学技術の発展は、人間が新しい兵器の使用に関わる倫理や規制をつくるより前に「戦場をより残酷なもの」にしてきました。

 設立以来SPIRITは、幅広いネットワークを基に国際的な研究を続けてきました。中でも、東海大学と東西冷戦期から交流の歴史を持つモスクワ大学との研究交流を重ねています。モスクワ大学情報安全保障研究所とサイバーセキュリティ研究分野で協力し、ロシア政府主導の国際サイバーセキュリティ研究コンソーシアムであるNAIIS (National Association for international information security)のメンバーに加えられています。2018年には、中国友好連絡会との長年の協力関係を基に少林寺釋永信(シー・ヨンシン)方丈がSPIRITの客員教授に就任されました。1年以上に及ぶ新型コロナ感染のパンデミックに揺れる世界の中で学術研究機関としての役割を果たしたいと思いいます。2016年学園本部から大学直属の研究所として生まれ変わったSPIRITの活動にご期待ください。

末延吉正 SPIRIT所長挨拶

『SPIRIT』は3つの研究プロジェクトを進めています!

人間の安全保障と地球課題:人間の安全保障研究は本来学際的な概念です。しかし、人間の安全保障という概念が国際関係論に導入されて以降、社会科学分野における交流は進んできましたが、理系、医療分野等との交流は深化していません。SPIRITは、そのようなジレンマに対し東海大学の持つ人的リソースを人間の安全保障という概念に収斂させ、先駆的な研究を行っています。『人間の安全保障が確立された社会』を実現する為、地球規模の環境、食料、エネルギー、保健衛生、人権、紛争、宗教、テロ、移民、海洋の安全保障、サイバーセキュリティ等の問題を『人間の安全保障』の理念を基に、社会科学、人文科学、工学、医学、農学など学際的・複眼的視点から研究します。

 

グローバルシフトと新しい戦争(サイバーセキュリティ、北極海、宇宙)

:サイバー空間をめぐる国際関係は現在、非常に難しい状況に置かれています。サイバーセキュリティに関するグローバルな統一されたルールが設けられていないだけでなく、争いに至った場合の調停者も不在という現状です。SPIRITは、1)サイバー空間における科学技術の発展が『人間の安全保障』にどう影響するのか;2)米国を中心とする民主主義国家群とロシアや中国を中心とする権威主義国家群の『国家と個人の主権に対する立場の違い』を明らかにするという2点を中心に研究を進めています。2017年にはモスクワ大学情報安全保障研究所と共催の国際シンポジウムを開催し、ロシアが考えるサイバー空間の秩序をめぐって議論が交わされ、『主権』に対する見解の違いが明らかになりました。日本にとって、民主主義の国家群との協力は比較的容易ですが、ロシアの専門家との協力は難しく且つ極めて貴重なものです。日本内外の文系理系の枠を超えた、学者、ジャーナリスト、実務者間によるサイバーセキュリティ専門家ネットワークの構築を目指しています。

 

ユーラシア地域の国際秩序の研究:インド太平洋地域、ユーラシア地域の安全保障は伝統的・非伝統的を問わず、常に国際社会の注目の対象になってきました。この地域は、世界経済発展の中心であると同時に、国家間戦争の可能性があると言われているからです。『人間の安全保障の諸問題』も凝縮されています。SPIRITでは、国際社会を理解しようとする学生、研究者、ジャーナリスト、政策決定者、ビジネスに関わる人々と共にこの地域の平和の実現を戦略的に研究しています。

【平和戦略国際研究所(SPIRIT)の歩み~東海大学平和戦略国際研究所略史】

創設者・初代所長 松前重義 前総長

2代目所長 松前達郎 総長

研究所の創設趣旨と創設者

 平和戦略国際研究所は、1986年(昭和61年)代々木校舎に設置されました。初代所長には故松前重義前総長が就任し、1991年(平成3年)から松前達郎総長が所長に就任しました。その後、松前紀男所長、吉川直人所長、2017年に末延吉正所長が就任し、現在に至っています。

 創設者松前重義は「私たちの世代は世界平和の構築に努力し、それを次の世代に引き渡さなければならない。教育活動と研究活動に携わる大学人がその英知を結集し、歴史に学びつつ積極的な役割をはたさねばならないと考えてまいりました。私自身、二度の世界大戦の惨禍を体験し、(中略)私は平和戦略国際研究所を創設し、大学レベルで世界平和に貢献することにいたしたのであります」と述べています(「アジア・環太平洋学長研究所長会議開催に全学あげての参加を」『平和研ニュースレター』第一号)。

『平和戦略国際研究所設立当時の核抑止力による東西対立と一過性のデタント(緊張緩和)という状況下にいて、同研究所を創設した松前重義らの問題意識は「軍事力の脅威と均衡による偽りの平和を排し、人類の英知による国際間の相互理解と相互信頼の上に人類愛的観点に立つ真の平和を築こうとする」ものであり、目指すべき研究活動として「①世界平和のための学長研究所長会議の開催、②各国の平和研究機関との交流、③各国の平和のための基本的態度と政策の研究、④軍縮と軍備管理の研究、⑤平和維持のための手段の研究」、などが挙げられているが、本研究所所長としての故松前重義が最重点を置いたのは、「世界平和のための学長研究所長会議の開催であった」』(東海大学五十年史 部局篇)。

また松前重義は、「天然資源に恵まれない日本が世界に貢献していくには、独創的な研究・技術開発による科学技術立国とならなければならない」としている。石油などのエネルギー資源に恵まれない日本は、かつてこれを武力によって国外に求めたため戦争という苦い経験をした。松前重義はこうしたことを憂い、二度と戦争を引き起こさないために世界の国々と平和的に共存していくには、国だけではなく民間レベルの交流が不可欠と考え、学術、芸術、スポーツなどの交流を通じて独自の民間外交の道を開いてきました。

こうした大学レベルで世界平和に貢献する研究機関として誕生したのが東海大学平和戦略国際研究所でした。松前重義所長は開設にあたって「平和への使命は、東海大学の建学の精神によるものである。しかも東海大学は教育、科学技術、文化、スポーツ等の分野で国際交流を積み重ね、平和のための努力を追求してきた。このような実績を基礎に、またそれを集大成させるものとして、平和戦略国際研究所の活動を活性化させたい」と述べています。(『平和研NEWS LETTER』創刊号)。

 当初、同研究所が最も重要な活動として開催したのが「アジア・環太平洋学長研究所長会議」でした。東海大学平和戦略国際研究所は学内諸機関と協力し第1回、第2回のアジア・環太平洋学長研究所長会議」開催に尽力しましたが、その後の第3回以降の開催は主催する各国の大学が運営の中心となり、過去20年、10回におよぶ開催を果たし多大な成果をあげてきた。

平和へのプロポーザル

 世界に先駆けて「人間の安全保障」を提起して以来、SPIRITは出版、研究会、フォーラム、国際シンポジウムなどを通じて非伝統的な安全保障をめぐる新しい理想を訴えてきました。

 21世紀の現在、国際社会では同時多発テロやイラク戦争といった摩擦が起きています。これは、世界観や価値観が大きく変わりつつある兆候と言えるのではないでしょうか。私たち一人一人が、地球人として、新しい課題の解決策を問われている証拠ではないでしょうか。ジェンダーや市民社会、グローバル化や地域統合―――今こそ、新しい時代に向けてチャレンジする時が来たのではないでしょうか。

 SPIRITは、約40年の活動経験をもとに、人間の安全保障の先を見据えながら、新たな予感に基づくグローバル・ヴィジョンとして、世界に向けて斬新なパシフィック・ヴィジョン(平和の視角、太平洋の視点)をプロポーズします。

人々の安心、欠乏のない生活

 国家中心の安全保障に慣れてきた私たちは、近年、注目されている脅威に無防備な面があります。水の過剰利用と汚染により、2025年には世界人口の2/3が水不足になると言われます。全世界で毎年1000万人の人たちが、エイズ・マラリア・結核といった治療可能な病気で亡くなります。交通事故の死者は年間120万を数えます。先進諸国でも、人身売買、突然の失業、地震・津波などによって、豊かな生活が不安定になります。

 一人でも多くの人が、枕を高くして寝られるように。できるだけ多くの親が、子どもの空腹を心配しないですむように―――SPIRITは人間の安全保障を軸として、新しい提案の実現を目指しています。