研究活動報告

2021年度 研究会

2021年度 第一回研究会 (2022年2月25日) オンライン開催

2021年度シンポジウム

米国バイデン政権のサイバーセキュリティ政策と我が国の政策への示唆

三角 育生(情報通信学部客員教授)

概要

三角育夫客員教授は、「米国バイデン政権のサイバーセキュリティ政策と我が国の政策への示唆」と題し、バイデン政権が採るサイバーセキュリティ関連政策の特徴を、戦略的政策か それとも対処的なものか、技術的な対策か非技術的なものか、人権に対するリスクのレベルなど、サイバーセキュリティ政策分析フレームワークを用いて分析した内容を明らかにした。三角客員教授は、分析結果として得られたバイデン政権下のサイバーセキュリティ政策の特徴は、包括的な政策パッケージ化、関係組織の連携重視、安全第一のアプローチなどである。こうした特徴を日本のサイバーセキュリティ政策の特徴と比較して、日本政府への有効な示唆を明らかにした。

ロシアのサイバー軍事力の現状と展望

佐々木孝博(客員教授)

概要

 佐々木孝博客員教授は、「ロシアのサイバー軍事力の現状と展望」と題するテーマの中で、ロシアについて、サイバー空間における安全保障問題を国家安全保障の重要な1つの分野と位置付けた。特に、同空間を単なる通信・情報インフラとして捉えるのではなく、情報戦をはじめとする紛争が生起する領域として、陸上、海上、空中、宇宙に次ぐ第5 の領域と捉えている、とした。

その領域におけるロシアにとっての脅威はいかなるものなのか、その脅威にどのように対抗していくのかを、「国家安全保障戦略」「軍事ドクトリン」および「情報安全保障ドクトリン」などで明確に規定している、と説明した。そして、ロシアはその戦略を具現化するために、ロシア連邦軍に「情報作戦部隊(サイバー軍)」を創設した。同部隊はサイバー攻撃や攻勢的なプロパガンダ活動の実施などを通じ、サイバー空間における情報優越を確保することを目的とした実働部隊とみられることを議論した。

また佐々木客員教授によれば、ロシアは、現代戦・近未来戦の雌雄を決するための鍵になると認識しているサイバー戦に、AI を取り入れ、勝ち抜こうとしている。ロシアはAI を、覇権を得るためのゲームチェンジャーとしての技術と捉えており、2030年までに、AI を使って米中の覇権争いに割って入ろうとしている。

今後、ロシアがAI をサイバー戦分野においていかに活用しようとするのかを注意深くみていく必要があり、我が国としては、この分野におけるロシアの独走を許さないような施策をとっていくことが重要となってくるだろう。

なぜ今、イギリスがインド太平洋地域へのプレゼンスを強化するのか

和田龍太(教養学部国際学科准教授)

概要

和田龍太准教授は、イギリスがインド太平洋地域へのプレゼンスを強化するのはなぜか、を考察する。イギリスが、「グローバル・ブリテン」構想の一環として、インド太平洋地域を重視する姿勢を強めていること、また、これにより地域の経済的機会を重視し、安全保障の安定に向けて関与し、人権や民主主義といった価値観を全面に掲げていることを説明する。特に、中国との経済関係を維持しつつも、中国のような権威主義国家がこうした価値観を衰退させている動きを懸念していることに言及した。こうした懸念から、イギリスはアメリカ、インド、豪州といったインド太平洋諸国との関係強化を模索していることを説明した。

ポストコロナのインド太平洋の新秩序と日本―インフラストラクチャーの観点から─

下平拓哉(客員教授)

概要

 下平拓哉客員教授は、「ポストコロナのインド太平洋の新秩序と日本」と題する発表の中で、米中対立とCOVID-19の影響は、インド太平洋地域における経済や安全保障分野にお いて顕著であると説明した。また、デジタルトランスフォーメーションなど社会そのものも大きな変容を遂げていることに言及した。したがって下平客員教授は、社会基盤であるインフラに注目して、ポストコロナのインド太平洋の新秩序について分析を加えた。同地域の秩序をめぐるゲームにおいては、伝統的安全保障と経済安全保障の基盤を規定するデジタルインフラをめぐっての対立、競争、協調のバランスをいかにとるかが支配的な要素となることを明らかにした。

2021年度 シンポジウム

第一回シンポジウム (2022年1月12日)

新春SPIRITシンポジウム

湘南キャンパスにて、学生・教職員を対象にした「コロナ過のスポーツと政治とは!?」と題してシンポジウムを開催しました。

■日時 1月12日(水)15:20-17:00
■場所 東海大学湘南キャンパス 2号館2S-101
■対 象 学生・教職員
■主 催 SPIRIT(東海大学平和戦略国際研究所)

シンポジウムの報告は、こちらのリンクをご覧ください。

 

2020年度研究会

第二回研究会 (2021年3月1日)

ポストコロナの日本の安全保障

下平 拓哉(客員教授)

概要

2021年3月1日、事業構想大学院大学の下平拓哉先生をお招きの上、「ポストコロナの日本の安全保障」のテーマでお話しいただき、研究会を実施した。具体的には、日本を取り巻く安全保障環境が、中国の台頭によりますます厳しさを増す中、トランプ(Donald Trump)政権からバイデン(Joseph Biden)政権に交代したことで、アメリカの外交及び安全保障政策がどのように変化し、また、強硬な姿勢を強める習近平政権が今後台湾に対してはどのような対応をとることが予想されるか、そして、このような中日本がとるべきオプション等につきお話しいただき、その上で参加者と活発な意見交換を行った。

科学技術(サイバー兵器、A.I.兵器)をめぐる国際政治

藤巻 裕之(平和研研究所員・政治経済学部政治学科准教授)

討論者:佐々木 孝博

概要

2021年3月1日(月)のZoomを利用した第2回研究会にて,東海大学政治経済学部政治学科の藤巻裕之准教授が講演した。

「科学技術(サイバー兵器、A.I.兵器)をめぐる国際政治」と題し,平和戦略国際研究所にて,講演した。

第一回研究会 (2021年2月19日)

フォークランド紛争をめぐるイギリスの対ソ連外交

和田 龍太 平和研研究所員・教養学部国際学科准教授

討論者:上村直樹教授(南山大学)

概要

和田研究員が、1982年にイギリスとアルゼンチンの間で発生したフォークランド紛争におけるソ連の意図に着目する研究を発表した。
和田は、フォークランド紛争をきっかけに、ソ連が南大西洋において影響力を増大させる可能性が低いとイギリスが結論付けたのはなぜか、という設問に言及した。その上で、イギリス外務省がソ連との外交を通じて、ソ連が西側の勢力圏とみる南大西洋地域への介入の是非を検討した経緯を説明した。
特に、ソ連が国内の経済問題を抱えている一方、対外的にはアフガニスタンやポーランド情勢に対処せざるを得ないため、アルゼンチンに接近する能力も意図もないという点、他方でフォークランド紛争が長期化すれば、イギリスの信頼を失墜させるためにソ連が介入する可能性が出てくる、という点が英外務省内で明らかにされたことを説明した。
 発表後、上村教授からは、本研究における、米英関係への示唆を中心に評論が行われたほか、ソ連側の意図については検証の余地があるといった意見があった。また、参加者からもソ連側の地政学的な視点に関する質問やコメントが複数投げかけられた。

Five Power Staff Meeting (FPSM)の意義と役割ー冷戦初期の同盟形成の観点から

2021年2月19日
西田 竜也(平和研次長・政治経済学部政治学科教授)

討論者:上村直樹教授(南山大学)

概要

「2021年2月19日に、「五か国参謀機構(FPSA)の意義と役割―冷戦初期の同盟形成の視点から」と題する研究発表を行った。
本研究は、東南アジア地域に関する五か国参謀機構(FPSA)が果たした役割と意義は何か、そして、なぜ仏、英国や豪はFPSAの発展に熱心であったのに対し、米国はなぜあまり積極的ではなかったのかという問いを分析することで、最終的には、アジア太平洋地域の米国同盟システムが成立した要因を明らかにしようとするものである。本研究会では、アメリカ外交、特に、米国と豪州、NZとの関係に詳しい上村直樹南山大学教授も招き、FPSAと第一次インドシナ戦争やベトナム戦争との関係等につき活発な意見交換を行った。

研究セミナー「人間の安全保障を考える~サイバーセキュリティにおける大学教育の役割」

2020年12月11日
情報通信学部,平和研 共催
https://www.u-tokai.ac.jp/ud-information-and-telecommunication-engineering/news/710/

概要

情報通信学部と平和研では12月11日に、研究セミナー「人間の安全保障を考える~サイバーセキュリティにおける大学教育の役割」をオンラインで開催しました。平和研では、人間の安全保障を理念に掲げ、サイバーセキュリティ、公衆衛生やヒトの移動をテーマに研究を進めています。昨今のIoT機器を使った犯罪やサイバーテロの多様化を受け、定期的にセミナーやシンポジウムを開催してきました。情報通信学部では、サイバーセキュリティ人材の育成を検討しており、今回は高輪キャンパスの大講義室での講演とパネルディスカッションをオンラインで配信しました。
始めに本学の山田清志学長が挨拶に立ち、「新型コロナ禍によって予想もしなかったような事態が起きています。ウィズコロナ、アフターコロナと呼ばれる世の中で、大学としてもどのように教育環境に対応していくか考えていかなくてはなりません。本日のセミナーを通して皆さんとこの問題についての議論を深めるきっかけにできれば」と期待を語りました。

第1部の基調講演では、情報通信学部の三角育生客員教授が登壇。三角客員教授は、通商産業省(当時・現経済産業省)で安全保障貿易管理やコンピュータ2000年問題、危機管理といった業務に従事し、特にサイバーセキュリティにおいて2005年から20年まで内閣サイバーセキュリティセンター副センター長・内閣審議官、経産省サイバーセキュリティ・情報化審議官などをつとめ、政府のサイバーセキュリティ政策に長く従事してきました。講演では、先進国の中でも先駆けて制定されたサイバーセキュリティ基本法について紹介。政府内でサイバーセキュリティに携わる組織や体制について詳しく解説するとともに、18年7月に閣議決定されたサイバーセキュリティ戦略の概要に触れ、さらに企業の経営層を支えるエンジニアの重要性や米中の対立とサイバーセキュリティの関係、関連する法整備の状況など多岐にわたって解説しながら、「拡大するサイバーセキュリティの外縁に対応するためにも、組織として対応でき、危機管理やリスクマネジメント、地政学、政治、法律、経営、経済、心理など技術面以外の要素も兼ね備えた人材を育成しなくてはなりません。そのためには文理融合かつ学際的な高等教育のあり方が求められます」と提言しました。

第2部のパネルディスカッションでは、三角客員教授に加えて、山田学長、平和研の末延吉正所長、政治経済学部の藤巻裕之准教授が登壇。情報通信学部の濱本和彦学部長の司会進行で、「東海大学におけるサイバーセキュリティの取り組み」をテーマに意見を交換。まず藤巻准教授がモスクワ大学とのサイバーセキュリティ分野における連携と経緯、平和研が開催してきたシンポジウムについて紹介し、末延所長はコロナ禍とアメリカ大統領選など現代社会の状況を交えながら、大学教育の場でサイバーセキュリティ分野に関心を寄せることや人材育成の重要性を指摘しました。また、山田学長は本学におけるロシアとの交流や平和研設立の経緯、サイバーセキュリティ分野研究の現状に触れながら、「これまで得てきた知見は必ずしも学生の教育面に活用されているとは言えない状況です。今後は国内の他大学にはないこれらの知識を、教育活動に還元する策を考えていかなくてはならない」と展望を語りました。さらに三角客員教授が「これらの教育へのニーズは高く、2022年度の実施が検討されている東海大学の大規模な改組改編によって東京キャンパスが整備されるとのことですので、この環境を生かして人材育成に取り組んでいただければ」と話し、最後に末延所長が、「来年度には政府のデジタル庁もスタートし、よりいっそうデジタル社会が進んでいきます。理系のマインドにジャーナリスティックなマインドを加えることで、新しい人材が育っていきます。今回のセミナーをきっかけに、新しい時代に対応できる人材を育てる大学としてさらに充実を図っていきたい」とまとめました。